黒字リストラの時代を勝ち抜くために!

 人手不足が叫ばれる中で人員削減が実施される事実をどう考えるべきだろうか。かつての「赤字対策」や「緊急的なコスト削減」という守りの施策であったリストラならば、そこで働く社員であれば、給与削減や経費削減で「うちの会社もそろそろヤバいぞ!」と肌で感じることができましたが、「黒字リストラ」の実施は、経営層ならともかく末端の社員には予測不可です。

 直近の「黒字リストラ」を調べてみると2024年度にはコニカミノルタ株式会社、ルネサスエレクトロニクス株式会社・・・、2025年度には三菱電機株式会社、パナソニックホールディングス株式会社、明治ホールディングス株式会社、オリンパス株式会社、三菱ケミカル株式会社・・・と日本を代表する企業があげられます。企業数も対象者数も増加傾向にあります。

 人手不足が叫ばれる中でこのように黒字リストラが増加している事実は 、企業が直面している課題が「総従業員数の不足」ではなく、「未来に必要なスキルを持った人材の決定的な不足」が原因と考えられます。黒字リストラは、グローバル競争力の強化、デジタル変革(DX)の推進、および年功序列型賃金構造の見直しなど戦略的な意図に基づき実行されていると推測しますが、高度専門人材や若手人材を高給で獲得するための資金を捻出する手段の一つになっているようです。

 先ずは、大規模な資本と経営体力を持つ東証プライム上場企業が「黒字リストラ」を牽引していますが、この黒字リストラの波は今後数年間にわたって加速する可能性が高いと思われます。

 いやはや大変な時代になったものです。では、この大変な「黒字リストラ」どのように乗り切ればよいのでしょうか。会社員の皆様は今後は黒字リストラに負けないために下記の3項目を心掛けて会社員生活を送ることが重要と考えます。

1. 究極のリスクヘッジ:稼ぎ口を増やす

 雇われている働き方をする限り、「昇給しないリスク」と「リストラされるリスク」は常に背中合わせです。黒字リストラは予測不可能で突然訪れる可能性があります。この最大のリスクを回避する根本的な解決策は、「稼ぎ口」を2つにすることです。本業でリストラされた場合でも、2つ目の稼ぎ口に専念することで食べていくことはできます。稼ぎ口が2つあると収入が増えるだけでなく、開業届を出して個人事業主として副業を行った場合、副業にかかった費用(パソコン、家賃・光熱費の一部など)を必要経費として計上できますので、税金を抑えられる可能性があります。また、会社員という安定した身分を維持しながら、副業を通じて経営者の視点を獲得することができます。

 副業を認める企業も増加しています。自分の持つスキルを活かして、外部で具体的な案件に対応したり、コミュニティーに身を置いて仲間同士がアドバイスしあったりすることで、リスク管理しながら年収をアップさせることが可能です。

 ただし、あくまでも本業がメインですし、何よりも健康が第一です。本業に支障をきたす副業はすべきではありません。本業に穴を開けてリストラ対象者になると意味がありませんから・・・。

2. 必須スキルへの「リスキリング」と自己変革

 今の企業が求めているのは、古い業務プロセスに習熟した人材ではなく、未来の成長分野で価値を生み出せるスキル」をもった人材です。企業内でのポジションを守るためではなく、「市場価値を高めるためのスキル」の獲得が急務です。技術的な専門能力以外に、膨大なデータを収集・分析して業務改善や意思決定に活用できる「データ処理能力」単なる技術導入ではなく、デジタル技術を活用してどのように競争優位性を高めるかを理解し、戦略を策定する「ビジネス戦略策定能力」プロジェクトの推進力、リスク管理、チーム運営における「リーダーシップ能力」経営層への提案・報告スキル、クライアントとの関係構築能力など、ビジネスを動かすための「コミュニケーション能力」が要求されます。

 新たなスキルを習得するためのリスキリングプログラムを自ら探して活用することが重要です。注意していただきたいのは、闇雲に何かしらの資格取得を目指すことです。早期希望退職で会社を辞めると同時に、学生時代に法律を学んだことを理由に司法試験のような難関資格に挑戦する方も珍しくはないのですが、弁護士資格を取ったからいって急に仕事が舞い込んでくる訳ではありません。リスキングの時間が無駄になってしまう場合もありますので、資格取得をする際には業界の特性や将来の可能性を理解をした上でリスキングしましょう。

 中高年はデジタル技術を学ぶことが最重要と考えます。製造業やサービス業における現場作業の効率化や、新技術導入の担い手として再び活躍する事例が増えています。オンライン学習やOJT(職場内訓練)を通じて実践力を養成するなど、時間や場所を問わずに学べる環境を最大限に活用しましょう。

3. 自身の市場価値を「可視化」し、次のキャリア戦略を立てる

 今の会社が提示する給与や評価が、皆様の真の市場価値と一致しているとは限りません。リストラという「人生最大の危機」が訪れる前に、自身の市場価値を正確に把握しておくことは大事です。危機に直面してからでは手遅れになります。当社の「中高年就活塾」の利用者の中には、転職する予定がないにも拘らず、自身のこれまでに職務能力の整理といつ訪れるかわからない危機に備えて「転職スキル」を身に付ける目的の方もおられます。世の中の動きに敏感な方は、危機を感じてそこまでしています。

 キャリアの棚卸しと定量化を行って、これまでの業務内容、達成した成果、習得したスキルを整理し、客観的に評価しましょう。特に、プロジェクトでの売上貢献額やコスト削減率など、ご自身の成果を具体的な数値で可視化しましょう。また、同じ職種や経験年数の求人情報や提示されている給与水準を調査し、自身の現在の待遇と比較して常に自身の市場価値を理解しておくようにしましょう。プロのキャリアアドバイザーを活用して現在の労働市場の動向を踏まえた客観的な評価とアドバイスを得ておくことも重要です。

 自分の市場価値を正確に把握することで、会社との適切な交渉や、次に進むべきキャリア戦略を立てることができます。自身に不足するスキルを補うためのリスキングプログラム探しにも役立ちます。市場価値の高いスキル(DX関連:データ分析、クラウド、AI活用など)を見極め、継続的な成長につなげていきましょう。

 この「黒字リストラの時代」は、企業が守りに入ったのではなく、未来のために固定費構造を最適化し、成長を目指している時代の裏返しです。黒字リストラによって終身雇用は完全に崩壊しました。皆様もこの変化の波を危機として受け止めるのではなく、個人が持つスキルとキャリアを「自己責任で経営する」機会と前向きに捉えて自己研鑽に励みましょう。それが黒字リストラの時代を勝ち抜くための唯一の戦略ですので!

2025年11月15日
伊藤 吉郎

 

 

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